
都内・江東区の下町風情あふれる住宅街。
今回の仕事は「マンション清掃」。時給1,200円×2時間に交通費500円。合計2,900円の単発バイトだ。
ASDの息子が経験したバイトを自分でも試してきた中で、清掃は24時間フィットネスジムに続き2度目。前回は黙々と作業できて達成感を味わえたが、今回は果たして・・・。
さて、「マンション清掃」と聞いて、みなさんはどんな風景を思い浮かべるだろう?
私もそれなりにイメージしながら現地へ向かった。ところが──なかなか“マンション”が見つからない。地図の上ではもう到着しているはずなのに。仕方なく依頼主へ電話すると、高齢の男性が建物の色を伝えてくれた。
これがマンション? 出だしからビックリ
「えっ、これ?」思わず声が漏れた。
どう見ても“アパート”にしか見えない3階建ての建物。確かに木造ではない。でも、誰もが想像する、エントランスやエレベーターのあるマンション”とはちょっと違う。動揺を隠しながら、依頼主の次の言葉を待つ。
「無理ゲー」ってこのこと?
「裏に回ってください。私の部屋がありますから」
案内された先には、風情のある玄関。ピンポンを押すと70代くらいの男性が現れた。この方こそオーナーで、そこから清掃内容の説明が始まる。
「廊下、階段、手すり、ランドリー室を水拭きしてください。各階の側溝も。時間が余ったら私の部屋もお願いします」
私の部屋って個人宅のこと? それってもはや家事代行では・・・
……無理!絶対!気が遠くなった。
女性目線で進める清掃
それでも優先順位を決めて作業開始。廊下、手すり、水拭き、側溝掃除、ランドリー室は洗濯機や乾燥機の裏側まで丁寧に。
以前、ある清掃会社の女性社長が「男性は下を見て帰るから床を、女性は壁や天井、郵便受けまで見ているから立体的に掃除を」と語っていたのを思い出す。全くその通りだと感じながら、一つ一つ片付けていった。
エンドレス
気づけば、すべての作業を終了したのは予定の15分前。
「これで終わりかな」と思った瞬間、オーナーの一言が飛んできた。
「じゃあ、私の部屋もお願いできますか?」
……来た! “追加オーダー”。
オーナー宅は2階構造。すべての部屋に掃除機をかけることに。汗だくになりながらも、なんとかやり切った。
清掃バイトの中の対極の世界
終わってみれば、不思議と“やりがい”のある仕事だった。オーナーとの会話や感謝の言葉が、ただの清掃を「人と人のつながり」に変えてくれたからだ。
ただし──ASDの人にとっては、ここに大きな壁があると思う。
相手の気持ちを汲み取るコミュニケーション、臨機応変な対応、さまざまな用具を駆使する工夫。どれも不得意とされやすい領域だ。
今回痛感したのは、同じ「清掃」という仕事でも、現場によってまったく性質が違うということ。
マニュアルに沿って進めるフィットネスジム清掃と、オーナーの気持ちを探りながら臨機応変に対応するマンション清掃──これはもう対極と言っていい。
仕事は“内容”よりも、“現場の性格”で大きく変わる。
この体験は、それを強く実感させてくれる出来事だった。
(ASD向け)今回の作業に必要な能力
評価項目 評価 コメント
マルチタスク ★★★☆☆ 廊下・階段・ランドリー・側溝など複数箇所を順序立てて進める必要あり。
フレキシブル ★★★★☆ オーナーの追加要望や、自宅掃除など予想外の作業に臨機応変さが必須。
コミュニケーション力 ★★★★☆(4点)オーナーの意図を汲み取り、終了後に報告・説明を行う力が必要。
感覚過敏 ★★☆☆☆ 汚れや洗剤、埃などの刺激あり。清掃用具の音や匂いに敏感な人は注意。
体力・精神力 ★★★☆☆ 階段の上り下りや水拭きなどで適度に体力を使う。集中力の持続も必要。
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